新世代自動車の環境性能

日野自動車とトヨタ自動車が共同開発した燃料電池バス「SORA」

[出典:経済産業省第3回燃料電池自動車等の普及促進に係る自治体連携会議資料3-1燃料電池バス(FCバス※)の開発と展望 2016年10月31日 トヨタ自動車株式会社]

 

新世代自動車の環境性能

最近、自宅駅前や会社近辺で燃料電池の都営バス(FCV)を見掛けるようになりましたが、デザインも未来感があって少しワクワクしてしまいます。京急も3月1日から同バスを導入し運用しているそうです。

FCVはガソリンタンクの代わりに水素タンクを搭載しこれを空気中の酸素と反応させ発電、この電力を利用してモーターを回しクルマを動かす、つまり、自分で発電しながら走行する仕組みです。走行時に二酸化炭素や環境負荷物質ではなく水だけを排出することから環境性に優れたバスと言えますが、お値段は1台なんと1億円ほどだそうです。通常のバスで2,000万くらいだそうですから、残念ながら全国規模での大量導入はまだ先の話となりそうです。

同じようにモーターで走行する車として外部からの電気を蓄電池にためてこれを動力に利用する電気自動車(EV)があります。以下では国産で代表的なEVである日産リーフとFCVのトヨタMIRAIを簡単に比較してみました。

1. 価格:MIRAI(×) < リーフ(△)
日産リーフが320万~と、同サイズのガソリン車に比べれば高めですが、トヨタMIRAIの730万に比べればこなれた価格です(ただし、MIRAIは国・自治体から多額の補助金がでるので実勢での差額は縮まります)。

2. 燃料満タン時の走行距離:MIRAI (〇) > リーフ(△)
リーフは一般的な走行環境であれば雑誌やネットではベースモデルで概ね250km程度と言われています。一方で高速移動のみだと1,550kmで15回充電を要したという記事も見られました。
MIRAIでも同様に高速では燃料消費が早くなるそうですが、カタログ値の6~7割の400km程度のようです。

3. 寿命:MIRAI (〇) ≒ リーフ(〇)
リーフに搭載されている最新リチウムイオン電池の寿命は8~10年くらいと言われています(メーカ保証は8年または16万km)。
MIRAIの燃料電池の劣化は酷使状況下15年で15%程度。ただ、出力は落ちるものの航続距離に影響はほとんどないそうです(燃料電池・高圧水素タンク・モーターのメーカ保証期間は5年となっています)。

4. 燃料ステーション:MIRAI (×) < リーフ(〇)
EV向けの公共充電スタンドは2018年で約30,000基(ガソリンスタンド数にほぼ匹敵)に達しています。
FCV向けの水素ステーションは132カ所(移動式39カ所を含む)に過ぎない状況です。

5. 燃料充填時間:MIRAI (〇) > リーフ(×)
リーフは急速充電40分でおおよそ80%程度(家庭用充電設備ならフル充電に8時間)、充電スタンドに先客がいれば待ち時間も長くなります。
MIRAIはフル充填に3分程度とガソリン車と変わりませんが、台数が増えてくるとステーションが少ないだけに混雑が予想されます。

6. 燃費:MIRAI (△) < リーフ(〇)
リーフは日産が月額2,160円で充電無制限プランを提供しています(対象外の充電設備や自宅での充電には適用されませんがガソリン車より安価で済むようです)。
MIRAIは実質ガソリン車とあまり変わらないようです。

上記は燃料タンクからタイヤを駆動するまで(Tank to Wheel)の着眼点で比較したものですが、それぞれメリット・デメリットはあるものの排ガスを排出しないという環境性、災害時の非常用電源車として活用可能な点ではとても優れていると言えそうです。ガソリン車に比べるとある程度の忍耐を強いられる可能性は高いと思われますが、自身のライフスタイルとの兼ね合い次第で検討するに値するのではないでしょうか。

一方、自動車の総合的なエネルギー効率であるWell-to-Wheel(油井から車輪まで)を考察すると、また少し違った側面が見えてきます。

EVに関して言うと、独ADAC(日本でいうところのJAF)が1台のクルマの「製造/リサイクル」から「走行(走行距離15万kmと推定)」「整備」「処理」まで、それぞれの過程において排出される総CO2の値を算出しました。

[出典:ADAC、上記グラフはhttp://jafmate.jp/blog/より転載]

いかがでしょうか?
EV製造段階におけるCO2排出量はガソリン車のそれを上回るため、EVへの供給電力を再エネ由来にしなければCO2削減効果は限定的なものになってしまいます。

また、FCVにおいても、燃料製造過程(ガス改質)、燃料輸送、充填(700気圧以上にするため電力消費が大きい)でCO2を排出するため、従前の消費サイクルではガソリン車を上回るCO2排出量になるという試算もあります。これを克服するには太陽光発電で電気分解した水素をFCVまたはEVで輸送するなどの対策が必要になります。太陽エネルギーから直接水素を生成する「人口光合成」も急速に変換効率が向上しているとの発表もあり、実用化されればエネルギーインフラのブレイクスルーが生じるかもしれません。

自然界にそのままエネルギーとして存在しているものを一次エネルギーと言いますが、これには①化石燃料、②原子力、③再エネの3つしかありません。何等かの動力を得るにはこれらの一次エネルギーをそのまま利用するか、他の物質に変換して利用することになります。
現状のままCO2が増え続けると、IPCCの最悪のシナリオでは今世紀末に4.8℃の温度上昇が予測されています。先述の通り、空気汚染や災害対策としてEV・FCVは現時点でも有効な手段ではありますが、CO2削減に目を向けた場合、エネルギー供給における③再エネの早期主力化と技術革新による有効活用が必須であるとの感を禁じえません。
メディアでは一次エネルギーそれぞれに反対意見が声高に叫ばれる記事を目にしますが、未来への投資についてそろそろ国民的なコンセンサスを得て進める時期にあるのではないでしょうか。

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