P2G 水素社会に向けて(2016年3月23日発表)

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先日関東経済産業局(経産省)の主催の水素利用に関するセミナーに参加しました。

まとめてしまうと、現在すぐに取り組める水素利用は
褐炭など水素を生成する上でCO2を排出するものですが、
海外を含めある程度安定供給され、現実性の高いものです。

ロードマップとしては、
2020年から2040年にかけ水素の利用を拡大しインフラを整備
最終的にはCO2フリーの水素供給システムを確立するというものです。

さまざまなビジョンや技術が示されましたが、
ここでは「P2G=Power to Gas」に関して取り上げてみたいと思います。

結論から言ってしまうと・・・

「再生可能エネルギーで生み出される電気で水素を作り
 その水素を利用することで
 温暖化ガスを排出しないサイクルを実現する。」

ということです。

そこであげられていた利点と問題点を整理してみましょう。

利点1:系統負荷軽減
 現在主に太陽光発電所が増えることで、系統を増強しなけばならないという
 問題が発生しています。
 これまでは、それぞれの地域にどの程度の需要があるかを
 電力会社が見極め、想定される最大需要に対応できる送電線、配電線
 変電設備を整備していきました。

 再生可能エネルギー全量買取制度が始まり、
 多くの太陽光発電所が稼働し始めると、
 それまで整備した送電線、配電線、変電設備の容量を
 上回る電気が流れる可能性があるため、
 それら設備を増強する必要が出てきました。

 実際我々の取り組む千葉の発電所に関しては、
 その変電所容量の増強を含め60億円という予算と
 5年という月日が示されております。

 但し、これは発電開始予定の太陽光発電所がすべて稼働し
 100%の出力を出したときに必要な設備です。
 現実的にはあり得ない、万が一、すべての発電所が稼働したとしても
 100%の出力が出るのは1年365日、8760時間のうちほんのわずかです。

 そのほんのわずかの可能性に対応するため、60億円もの費用をかけて
 上位系統増強というインフラ整備を行おうとしているのです。

 そこで水素利用が考えられます。
 発電所に電気を水素に変換できるプラントがあれば、
 太陽光発電による電気が系統容量を上回る時間は水素を精製~貯蔵、
 系統がすいている時間に電気を送るということが可能になります。
 これが実現すれば、無駄なインフラ整備が避けられることになります。

 また、太陽光発電は電気が必要な時に供給されるとは限りません。
 例えば平日の昼間で工場など大口需要家が電気を大量消費する時
 雨が降っていれば電力が供給されないので、
 バックアップとして火力発電など短時間で需要増に対応できる
 発電所を整備~維持していく必要があります。

 これも電気が余っているときに水素として貯蔵し、
 必要な時に燃料電池で電気に戻し供給することで解決されます。

利点2:貯蔵できる=安定電源になりうる
 将来電力は地域分散化し、地産地消を目指すべきといわれています。

 これまで原子力発電所のような大規模発電所で生み出された電力を、
 大規模な送変電設備を整備し、遠くまで届けるのが一般的でした。
 
 しかしこれにはインフラ整備と維持のために多額の費用が必要となります。
 また、災害が発生した際、発電所が機能しなくなると
 大規模広域停電が起きるなどの弊害があります。

 対して小水力発電のようにほぼ一定した電力を安定的に生み出せる
 小規模な発電所が地域内にあれば、
 その地域が電力的に自立することが可能になります。
 大規模なインフラ整備は必要なくなる可能性があります。

 問題は小水力発電の適地は限られ、どこでもというわけにはいきません。
 川が無い、平地で落差が無い、といったところでは不可能です。
 
 そんな場所でも発電可能な再生可能エネルギーが太陽光発電です。
 先ほどの利点と重複する部分がありますが、
 太陽光発電で生み出される電力を水素として貯蔵することで、
 太陽光発電が安定電源になりえる可能性があります。

問題点1:変換効率
 現在電気を使って水素を精製する=アルカリ水電解は変換効率が低く
 エネルギーロスが大きいといわれています。
 これに対して効率の高い「固体高分子水電解」や「高温水蒸気電解」という
 技術が示されていました。
 このような技術が一般化することで変換効率は改善されていくものと思われます。

問題点2:安全性
 水素は密閉された空間で大量に漏れ、そこに火種があった場合爆発します。
 過去にもっとも有名な事故は飛行船ヒンデンブルグ号の事故でしょうか?
 ただ、今回のセミナーを聞いて認識を新たにしたのは、
 危険性として既存のガスやガソリン等と大差ないということでした。

 比重が軽く、漏れ出した場合の拡散スピードが速いので、
 漏れた水素に引火するという可能性は低いようです。

 ただ、貯蔵運搬する際には高圧で圧縮する等の可能性が考えられますので、
 そういった部分での安全性担保は重要な課題です。

水素が再生可能エネルギーから生み出され、CO2排出の無い、
究極のクリーンエネルギーサイクルが確立されるのは近い将来ではないかもしれません。
ただ、過酷事故や核廃棄物問題のある原子力発電や、
CO2を大量に排出する化石燃料に頼るのではなく、
長い未来にわたり、持続可能なエネルギー供給を可能にする水素に大きな期待をしています。

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