我々が消費する電気は様々な発電所からの電気がミックスされ各需要家に届けられていますが、電気の品質は一様でどこの発電所で発電されたものかは通常あまり意識されていません。しかしながら、日本のGPIFを含む世界の主要な機関投資家においては環境などへの配慮を重視するESG投資が拡大、これに準じたポートフォリオに組み替える動きが活発化しています。従前のまま、二酸化炭素(CO2)を排出する化石燃料をエネルギー源として事業運営を行っている企業体は投資対象から外されるなど、環境を意識した経営を求められる情勢になってきています。
そこで事業運営に必要なエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とするRE100プロジェクトが注目を集めています。米国の時価総額トップ10のうち8社が既にこのプロジェクトに参加しており、日本でもリコーが参加したのを皮切りにソニー、富士通、積水ハウスなど大手企業が続々と参加を表明しています。
このような背景には、2016年4月フランスのパリにおいて気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催され、日本を含めた175か国と地域が以下の内容について合意したことが大きく影響していると考えられます。
※その後、トランプ大統領の宣言によりアメリカは同協定から離脱しましたが州政府・企業レベルでは依然CO2削減に向けた取り組みが継続されています。
- 全加盟国が温室効果ガスの排出量削減目標を定め、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑え、加えて1.5℃以下にする努力目標も規定する。
- 21世紀後半、人為活動による温室効果ガスの実質的排出量をネットゼロにする。
- 先進国は、途上国の温室効果ガス排出量削減に対し経済・技術支援を行う。
日本においては2013年比で2030年までに26%の温室効果ガスの削減目標が提出されていますが、これを反映した形で今年7月3日に閣議決定された「エネルギー基本計画」では、2030年の電源構成比を原子力20~22%(2016年度:2%)、再エネ22~24%(同:15%)を目標とすることが明らかにされています。
現在、石油・石炭・天然ガスなど化石燃料を用いる火力発電が8割程度を占めていますが、これを2030年までに6割以下に削減するということになります。合わせて、電力小売事業者に対し2030年度の供給電力の44%をCO2ゼロエミッション由来のものとするよう義務付けられ、これを実現するための1つの手段として非化石証書の活用が期待されています。
非化石証書は、電力小売事業者が非化石証書を事後的に購入することでCO2ゼロエミッションの電源を需要家に供給したと見なす制度でこれまで2回入札が行われました。しかしながら、これまでの非化石証書は、FIT電源由来であることまでは判別されるものの、RE100で求められる電源種や発電所所在地などの電源のトラッキング情報までは付加されずいずれも低調な入札結果に終わっています。
こうした中、経産省は実証実験として非化石証書に新たに上記のトラッキング情報を付加した非化石証書を2019年2月より販売、これによりRE100に活用できることを発表しました。小売電気事業者にとってはコスト増大の要因ともなりますが、料金以外に差別化の難しい電気という商品を扱ううえで自社の電源構成または販売メニューを差別化できる機会となり得ます。
※なお、非化石証書は原子力由来の電源も販売されますが、RE100は再エネ由来の電源のみが有効な電源とみなされます。また、2020年には非FIT電源にも非化石証書が発行される見通しです。
売却収入はFIT賦課金の原資に充てられますので、取引量の増大は即ち国民負担が軽減されることを意味します。従って、再エネの発電コスト(買取価格)の低減とともに売却収入の増大により国民の理解が得られやすくなれば、日本における更なる再エネ普及をもたらすプラスのスパイラルが期待できます。
CO2という温室効果が年々増加しているという事実に向き合い、それに対する世界的な運動に日本も積極的に関与していくことは、子孫により良い環境を引き継いでいくという我々世代の責務を果たすうえで大切な一歩となるのではないでしょうか。